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最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)197号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人菅井和一上告趣意書第一點は「原判決はその理由に於て「第一被告人大箭重男は……五百圓の貸與方を迫りたるも應ぜざりし爲茲に其の所持金を強取せんことを企て矢庭に拳固を以て同人の顔面を強打し……」と認定し原審に於ける被告人の供述を證據として居る依って原審に於ける被告人大箭の供述を精査するに記録第二七五丁表被告人大箭の答中「……私は友達の誼みに貸して呉れてもよいだろうと思ひ又勝負に負けていらいらして居た爲に毆って金にする氣になり(挿入部分)いきなり拳固で吉田の顔を毆ったのです」とあるも其後同一事項に對する裁判長の問に對し(記録第二七六丁裏九行目より)同被告人は吉田に金を貸して呉れと云ったときに多少喝上げをすると云ふ氣持があったのか。答、左様な氣持はありませんでした。問、では何故毆ったのか。答、負けていらいらして居たので貸して呉れなかった爲めに毆ったのですとあり前の供述を明かに否定して毆って金にする積りではなかったとして居る即ち同一事項に付て相反せる二つの供述があるときは前の供述は後の供述に依って變更せられたものとすべきでありその限度に於て證據價値なきものと云はねばならない然るに原判決が變更せられて證據價値を失った前の供述を證據として居るのは違法であって破毀すべきものと考へる」というにある。

原審公判調書を見ると、被告人は公判廷において、最初判示強盗傷人の事実については、同罪の構成要件に該當する主要な事実を自白し、その後に至って犯意の點を一部否認するに至ったものであること明かである。被告人がこのように一度公判廷において自白した以上は、たとえ同一公判廷においてしかもその自白の直後においてこれを變更しても、裁判所が前の自白を證據として採用することは何等違法ではない。よって論旨は理由がない。

同第三點は「此の點は被告人大箭に関するよりも主として原審相被告人宮川勇に関するところなので本件上告理由として如何かと思はれるのであるが原審相被告人宮川は第一審に於ては強盗傷人の共同正犯として懲役三年六月に處せられ控訴の結果その辯解が成立ち原審に於ては從犯として懲役二年三年間執行猶豫の判決を受けた即ち同被告人の控訴は理由ありとせられたのである從って原審は刑事訴訟法第五五六條第一項第二號により控訴申立後の未決勾留日數を本刑に算入すべきものであるにも拘らず漫然「被告人両名に對し刑法第二十一條に則 原審に於ける未決勾留日數中百五十日を右本刑に算入し」となし刑事訴訟法第五五六條を適用しなかった違法あるものである」というにある。

しかしながら、被告人の控訴が理由ある場合において、控訴申立後の未決勾留日數の通算については、刑事訴訟法第五百五十六條の規定により、判決確定後その執行を指揮せらるゝ際にこれをなさるべきものであって、刑法第二十一條の規定を適用して判決においてこれを宣告すべきものではない。これを本件について見るに、被告人は第一審においては當時少年法の適用を受ける少年であったので懲役三年六月以上五年以下の不定期刑の言渡を受け、これに對し控訴を申し立てたところ、第二審の判決言渡當時は被告人はもはや少年法の適用を受けなくなった關係もあって、第二審においては懲役三年六月に處する旨の言渡を受けたこと記録上明瞭である。果して然らば、被告人は第二審においては第一審よりも輕い刑の言渡を受けたのであるから、控訴はその理由あるものというべく、從って控訴申立後の未決勾留日數は本刑に通算せらるべきものであるが、その通算について、原審が以上の説明に則りこれを判決において宣告しなかったのは寔に正當であるといはなければならない。論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上の理由により刑事訴訟法第四百四十六條に從い主文の如く判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見に依るものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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